
先日ネットの同人界隈で「小説書きさんが絵師さんに同人誌の表紙をお願いしたけど、思い通りのものができずしんどかった」みたいな匿名ブログがバズりました。確かに経験がないとどうやって依頼したらいいのかわかんないですし、コミュニケーション不足とかトラブルとか起きがちですもんね。
私は自分で描いている上、イラストレーターさんや漫画家さんにお仕事で絵を発注する仕事をしてたので、両方の気持ちがよ〜くわかります。あと絵を描かないクライアントさんの要望をまとめて絵の指示を出したりもしてたので、そういう方と起きるすれ違いみたいなものもちょっと知ってます。
そういうわけで、ちょっとビジネス的な視線も踏まえながら依頼の仕方を解説します。
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誰に描いてもらうか決める
二次創作であれば、同じ界隈のあの人に頼みたいな〜となんとなく決まっているかと思います。それならとりあえずお伺いを立ててみましょう。メールでもDMでもオーケーです。普通のリプライだと人目について嫌がる人がいるかもしれないので、見えないところで聞くのが無難です。お伺いメールの書き方は後ほど。
SNSやサイトなどの見える場所に「依頼は受け付けてません」とかいている人がよくいます。実生活が多忙だったり依頼自体にトラウマがあったりするので、ワンチャンあるかもとはおもわず引き下がりましょう。
二次創作の絵描きさんにこだわらない、または特定の人が決まっていなければ、skebやココナラ、ランサーズなどのお仕事仲介サイトを使うのもおすすめです。こういうサイトを使うメリットは、金銭のやりとりがうやむやにならないこと、絵描きさん側が音信不通になったりする可能性が非常に低いことです。お仕事として真面目にやる気があるってことですからね。


Skeb - Artwork Request Box
その人は絵の仕事の経験があるか?
すでにイラストレーターとして活躍している、以前から依頼絵をアップしている人は経験豊富なので、スムーズに依頼が進む可能性が高いです。その分謝礼が多めに必要になるかもしれませんが、トラブルが起きにくいとかクオリティに信頼があるとかのメリットと天秤にかけてどうするか考えましょう。
同じジャンルの人、またはネットで見つけた一般的な絵描きさんであれば、絵を仕事にしたことがないかもしれません。すでに仲良しでなんでもズバズバ言える仲なら大丈夫ですが、そうじゃない場合は「思った通りに描いてもらえない〜」とか「謝礼の割にクオリティが…」とか、本人に指摘できず不満が生まれる可能性があります。
絵の仕事をしてなさそうな人に頼むなら、下の要素を確認してから依頼しましょう。
- 小説本の表紙を頼むなら、同人誌を作ったことがあるひとに。同人のオフ経験がない人は印刷用のデータをうまく作れません。サイズや解像度、CMYK、RGBなどで間違いが起こります。また、そもそも表紙サイズのデータや拡張子を扱えない環境だったりもします。
- SNSなどで普段の言動に引っかかるところがないひと。攻撃的、やたら愚痴が多い、人のプライバシーに関わることを言っている場合、依頼で気に入らないことがあった時にSNSで吹聴されたり、謝礼額を言いふらされたりする可能性があります。
- 同人小説が嫌い、または見下していないか。ごくたまにですがそういう人もいるので、のちのち喧嘩とかにならないためにもチェックしときましょう。
謝礼について
有償依頼が基本
同人だから、友人だからということで無償で請け負う人も多いですが、基本的には謝礼を渡す前提で依頼しましょう。個人的には数年業界にいてこんな感じかなという体感ですが、あくまでも例として見ていただければ。
書き込みはどのくらいか、など時間と手間がかかるほどお値段も上がります。現代服のキャラ一人であれば5000円でも描いてくれる人はたくさんいますが、複数人で背景びっしり描いてくださいとかだと、5000円ではなかなか難しいところがあります。
- 安くていいよって言ってくれる人5000円〜
- アマチュア絵描き1万円〜
- プロでがっつり仕事してる人3万円〜
- 超大御所プロ作家10万円
上の値段はキャラだけ書いてもらう感じです。相手がプロかアマか、仲がいいか他人か、その人の相場はいくらか、によって値段は上下します。これに加えて下の要素でも変わってきます。
- キャラクターの顔アップ、もしくは一人のみ
- カラーかモノクロか
- 複数人のキャラの全身をかく
- ファンタジーなどで書き込みが必要かつ難しいファッション
- きちんとした背景をかく
- タイトルロゴ、装丁デザインも一緒にやってもらう
書き込みはどのくらいか、など時間と手間がかかるほどお値段も上がります。現代服のキャラ一人であれば5000円でも描いてくれる人はたくさんいますが、複数人で背景びっしり描いてくださいとかだと、5000円ではなかなか難しいところがあります。
予算が少ないのであれば、あまり多くは注文せずにどの程度まで対応してもらえるかきちんと確認しましょう。顔アップなら1万円でいいよ、と言ってくれる超人気作家さんもいるかもしれません。
謝礼額を決められないときは
下の依頼文テンプレートをしっかり作って本人に聞きましょう!謝礼きっちり出すので表紙を書いてほしいんですがいくらですか?と。それで気を悪くする人はほとんどいません。
謝礼の渡し方
同人誌を頒布するイベントで一緒に参加する、または同日に会えるようであれば、献本と一緒に手渡しがおすすめです。現金剥き出しは失礼なので、封筒に包みましょう。
現金はちょっと…と思ったり、あらかじめ絵描きさんから謝礼はOKだけど現金は受け取れませんなどと言われていた場合、商品券などにしてもいいですね。
- アマゾンギフトカード…ほぼ誰でも使えて便利
- グーグルプレイカード、iTunesカード…ソシャゲ課金してる人へ
- ニンテンドープリペイドカード、プレイステーションストアカード…ゲーマー向き
- 図書券…単行本派に
- 各種商品券…おしゃれな人ならデパートとかもあり
アマゾンのはコードのみもメールなどで送れるので便利です。他にも遠くて会えない場合は、paypal、paypay、銀行振込を使います。paypalやpaypayはアカウントさえあれば匿名で受け渡しできるので楽です。または献本を郵送する時に商品券を同封しましょう。
無償依頼なら
相手がどうしても現金の謝礼を受け取れないことがあります。税金の関係とか、副業とか、そういう価値観だとか、理由はいろいろです。社交辞令ではなく本当に無償で引き受けてくれたら、現金以外のちょっとした謝礼をおすすめします
- 上にあげた商品券で低額のもの(〜3000円)
- きちんとしたプレゼント用のお菓子
- その人の推しのキャラクターのグッズ(欲しがっている場合のみ)
- 小説をその人のために書きおろす(相手から欲しいと言った場合のみ)
- 絵描きさんの同人誌を買って応援
- 仲が良ければ食事を奢る
パッと思いつくのはこんな感じでしょうか。いくら謝礼はいらないと言われても、何かしらの形で感謝をたっぷり伝えられるといいですね。
依頼文のテンプレート
初対面の人、もしくはこちらが一方的に知っている同人活動経験者への依頼文になります。かなり丁寧になるよう心がけているので、知り合いであればこれを崩した形にしてください。
突然のご連絡失礼いたします。
私、(ジャンル名)で同人活動をしている(自分のハンドルネーム)と申します。
普段は小説を書いているのですが、(日付)に頒布予定の新刊にて、(相手のハンドルネーム)様に表紙絵を描いていただきたくご連絡差し上げました。
実は以前より(相手のハンドルネーム)様のSNSや同人誌を拝見しており、(相手の絵の好きなところを挙げる)が本当に素敵です。中でも(相手の過去作品で一番好きなタイトル)は(感想をちょこっと)で、ぜひ表紙絵を描いていただければと思っております。
実は以前より(相手のハンドルネーム)様のSNSや同人誌を拝見しており、(相手の絵の好きなところを挙げる)が本当に素敵です。中でも(相手の過去作品で一番好きなタイトル)は(感想をちょこっと)で、ぜひ表紙絵を描いていただければと思っております。
以下に詳細をまとめましたので、もしご検討いただけそうでしたら(日付)までにお返事をいただけないでしょうか?
お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします。
●ジャンル:オリジナル/もしくは〇〇で連載中のマンガ「〇〇」
●絵の〆切:明確な日付/もしくは大体の日付/できればラフ提出などの中間〆切も
●頒布予定イベント:(日付)開催の(イベント名)
●謝礼:1万円
●納品データ:CMYK/RGB/ファイル形式の指定/サイズ/解像度
●依頼中の連絡方法:メール/ツイッターDM/スカイプ通話/ライン通話
●使用範囲:小説の表紙のみ/当日のポスター/グッズにも使うとか
●書いてもらうラフ点数:1枚のみ/複数出してもらう
●ご依頼内容
・自分が書いている小説の表紙と裏表紙の1カット/中の挿絵3カット
●謝礼:1万円
●納品データ:CMYK/RGB/ファイル形式の指定/サイズ/解像度
●依頼中の連絡方法:メール/ツイッターDM/スカイプ通話/ライン通話
●使用範囲:小説の表紙のみ/当日のポスター/グッズにも使うとか
●書いてもらうラフ点数:1枚のみ/複数出してもらう
●ご依頼内容
・自分が書いている小説の表紙と裏表紙の1カット/中の挿絵3カット
・〇〇と〇〇というキャラクター二人
・フルカラー/2色刷り/モノクロ
・背景は必要/不要/写真合成/既存のパターンやデザイン合成/お任せ
・修正は一度ラフを見せていただき、その時に1回だけの予定
・タイトルなど装丁デザインをしてもらうか否か
自分の署名
自分のメアド
自分のSNSアカウント
・フルカラー/2色刷り/モノクロ
・背景は必要/不要/写真合成/既存のパターンやデザイン合成/お任せ
・修正は一度ラフを見せていただき、その時に1回だけの予定
・タイトルなど装丁デザインをしてもらうか否か
自分の署名
自分のメアド
自分のSNSアカウント
ここで前向きなお返事がきたら、細かいところを詰めましょう。期限ギリギリまでに返事が来なければ念の為もう一度だけメールを送り、それでも反応がなければあきらめましょう。
それから、相手が同人作家であればあまりにビジネスライクだと嫌がられる事があります。依頼するときは相手の作品への感想を書き、あなたの絵が好きだからぜひ!という気持ちをしっかり伝えてください。
打ち合わせで詰めていく
絵描きさんに承諾してもらったら、お互いの空き時間を確認して打ち合わせをしましょう。できればメールだけでなく通話も1度はすることをおすすめします。文章だけの依頼は誤解を産みやすく、質問のやり取りをするにも時間がかかってしまうので。もし会えるならイベントの帰りに1時間カフェで話すとかでもいいですね。まずは通話の前に、箇条書きで依頼内容を整理して送ります。できればラフも送ります。ラフは下手でもあったほうがいいですね。特に依頼されることに慣れていない人は全てをお任せされることに不安がありますから。
メールなどでラフと依頼内容を送ったら、そのあとに通話で補足と説明をします。絵描きさんもあらかじめ資料に目を通して質問などが浮かぶと思うので、その辺を通話しながら解消していきます。
箇条書きでまとめること
- 全体的な印象:元気、ラブラブ、大人っぽい、おしゃれ、無機質
- キャラクターの構図:二人が抱き合う、一緒にジャンプなど
- シチュエーション:夏休みのバケーション、花屋の前で会話とか
- 背景:描いて欲しい、写真や素材使っていい、こっちでやるからキャラだけで
- メインカラー:赤、青、黄色、ピンクと水色
- 全体スケジュール:ラフ提出、修正指示、色ラフ提出など小分けに
- 上に描いた中で、絶対に守ってほしい条件とお任せの条件
- その他要望
資料として出した方がいいもの
- 自分の小説の簡潔なあらすじと表紙のイメージに合うシーンの抜粋
- 描いてもらうキャラの、好きな表情とか全身がわかる公式絵
オリジナルキャラなら詳細な指示書(全身の全ての色の指示) - その人の過去作で、描いてもらいたいのと同じ雰囲気のもの
- あなたのイメージに近い商業誌や他の同人誌、雑誌、映画ポスター
- あなたのイメージに近い色のイラストや写真など
お互いに確認しとくこと
- この予算ならどの程度まで書き込めるか
- 背景は描いてもらえるか、素材を使うか
- 締め切りは余裕があるか、ギリギリになるか
- ラフができたら一度見せてもらう
その時に修正があれば指摘
修正後のラフは見せてもらうか、見せなくても色ぬりの段階で修正すればOKか - それ以降の修正はどうするか
色ぬりを仕上げた後の修正は追加料金必要か
通話で決まったことは、あとでメールで箇条書きにまとめて送りましょう。相手にも親切ですし、後々言った言わないの喧嘩になったとき証拠になります。
自分の小説を無理に読ませない
依頼した人が自分の熱心なファンではないときは、小説を全部読んでもらうことは難しいです。表紙を描くのに本文読まなきゃダメじゃない?と感じる人もいるかもしれませんが、長い文章を読むのが苦手な人もいます。小説を読んでいる時間がない人もいます。依頼したときはあくまで簡潔に要約したあらすじに目を通してもらう程度にしましょう。
制作の流れ
- 打ち合わせ
- 絵描きさんラフ提出
- (字書きさん修正あれば指示)
- 絵描きさん色ぬり開始
- (もし必要なら大まかに塗ったものを途中で見せてもらう)
- (色のイメージにズレがあればこの時に指示)
- 絵描きさん色ぬり完成
- 字書きさんチェック
- (もし必要なら色ぬり後の修正指示)
- 表紙が完成、データをもらう
だいたいこんな感じです。相手がプロか依頼絵に慣れている人なら、修正やチェック回数が増えるほど謝礼も高くなります。相手が「不安だから確認してほしい」と言った場合を除き、修正やチェックは必要最低限におさえましょう。
修正はどちらのミスで起きたかはっきりさせる
修正が多く入ると追加料金がかかるのがプロの世界ですが、同人の場合も同様です。もし自分が伝え忘れていたために修正をお願いしたら、大きな修正だとか書き直しレベルであれば当初の謝礼よりも増やした額をお渡ししましょう。しかし、自分はきちんと打ち合わせで伝えメールも送っていたのに、相手がすっかり忘れていたということもあると思います。そういうのに対する修正に追加料金は要りません。物腰柔らかめかつ毅然とした態度で伝えましょう。
どちらのミスで書き忘れたのかわからなくなることもあるので、上で書いたようにメールや文章の形で必ず指示を残しておくことをおすすめします。
完成したら表紙絵の感想を伝える
たまに絵描きさんの愚痴で見かけるのが、「表紙絵描いたのに謝礼を無言で渡された」という悲しみの嘆き。完成したものはちゃんと言葉と気持ちでもお礼しましょう。特に1万円以下の依頼や同人ジャンルではしっかり感想を伝えましょう。
絵描きさんは褒めてもらうのが大好きです。謝礼が少なくても丁寧に褒めてもらえれば「描いてよかったな!」といい気持ちになり、また依頼を受けてくれる可能性が上がります。
プロの作家さんも同じです。お互い気持ちよく終えられたら、次回も優先的に依頼を受けてくれます。たくさん謝礼をくれるとしても、そっけない態度や依頼の仕方が雑な人、コミュニケーションを取ろうとしない人の依頼は2度と受けないという作家さんもいます。
伝えないと描いてもらえない
冒頭であげた匿名ブログがバズったときは、「ちゃんと自分の要望を絵描きに伝えたのだろうか?」「いろんな人に頼んでるのに毎回同じ雰囲気になるということは、字書きがちゃんと指示していないのでは」という指摘が多かったです。細かいことは端折りますが、要するに「こうしてほしい」と伝えていなければ、どんな絵になっても文句は言えないということです。「私の作品はこうだからこういう絵にしてくれるはず」とか「この場面はこういう表情に決まってる」と思っているだけで相手に指示しないなら、自分の予想外の絵になることは当たり前にあります。
きちんと打ち合わせしてもイメージのズレってありますから、譲れないところは特にしつこいくらい情報共有、イメージのすり合わせをしておきましょう。出来上がったらがっかりだった、なんてお互いに悲しいですからね…
盗作する人に当たらないために
表紙絵を依頼したら、出来上がった絵が第三者のパクリだった、ということがあるみたいです。その方は刷り上がった同人誌を全て破棄したとのこと。こういう場合は相手に謝礼の返金と印刷代を請求していいですが、ばっくれられるかもしれないので慎重に行きましょう。盗作する人の傾向
まずネットでその人のハンドルネームと盗作で検索しましょう。すでにやらかしている有名な人なら注意喚起用のサイトやツイッターアカウントなどが作られていることがあります。盗作やトレスがバレてない人も多いので、そういう人は日々の作品と行動を見てみましょう。下にあげたのは盗作している人々を長年観察して「こういう傾向だなあ」と思った特徴です。必ずしも全員に当てはまる訳ではありませんし、当てはまっても盗作をしていない人の方が多いです。あくまで参考材料として話半分程度にどうぞ。
- 絵柄が安定していない、たまにものすごく下手な絵がある
→普段トレスしているので、たまに自力で書くとボロが出る - 輪郭や耳、髪、手など手癖の出る部分が絵によってやたら違う
→いろんな人のトレスをしていると共通点がなかったりする - デジタルは上手いのにアナログだと全然かけない
→アナログでトレスする道具を持っていないため
- 普段からアニメや漫画のスクショをネットに貼りまくっている
→著作権意識が低く他人の作品を安易に扱う傾向 - シャッターストックなどの素材サイトのウォーターマーク(画像に透けてるサイン。有料写真のサンプルに付いている)がある写真を使っている
→著作権フリーではない素材を表紙絵に使う可能性あり
- 原作への愛がなさそうな同人誌ばかり出してる
- 創作活動より自分のアイドル化が好き→絵を描くことより同人で稼ぐこと(いわゆる同人ゴロ)や、ちやほやしてもらうことなどに重きを置いてるんですよね。盗作すると時間をかけずに上手い絵を描けるので、絵にこだわりがない人は盗作に走りがちです。
発行後のトラブルも避ける
盗作をしていなくても、著作権的に危なげな人はのちのち炎上するかもしれません。炎上した人の絵を表紙に使い続けるのはかなり苦しいと思います。発行後にトラブルがあって同人誌が売れなくなるのはしんどいので、依頼の時点でよく吟味しましょう。