漫画やイラストのトレパクって何がいけないの?



トレパクという言葉をご存知でしょうか。他人の絵や写真をトレース(上からなぞる)してパクる(盗む)という意味です。おもに絵描き界隈で悪い意味で使われています。

この記事では、トレパクの法的な説明や、合法的なトレパクの仕方、漫画での事例などをまとめています。また、トレースだけでなく「模写」もこの記事では同様に扱っていきます。

トレースとは元画像を下敷きにして上から線をなぞること。模写は肉眼で見たものを書き写すことを指します。

トレパクの何がいけないのか

法的:著作権を侵害している

トレパク元の画像には著作権があり、トレパクをすることで著作権を侵害することになります。著作権侵害は、法律で悪いことだと定められています

日本の今の法律では著作権侵害は「親告罪」になっているので、パクられた人が訴えない限り捕まることはありません。しかし近年「非親告罪」になるかもしれない、と言われています。「非親告罪」になると、パクられた人が訴えなくても捕まる可能性が出てきます。トレパクは軽く見られがちですが、れっきとした犯罪だということを覚えておきましょう。

心理的:元画像の作家を利用している

今までいろんなトレパク大炎上を見てきましたが、トレパクする人の理由はこんな感じだと思っています。

  • 仕事の締め切りに間に合わないから、時間短縮のため
  • 絵を描いて人気になりたいだけで、絵の練習はしたくない
  • 実力がないので難しい絵はパクらないと描けない
  • 素敵な画像をパクれば自分の作品がもっとよくなるから

トレパクって、自分のために他の作家さんを利用しているんですよね。元画像の作家さんはアイディアを考える時間や取材などで努力してるのに、自分はその上澄みだけを奪っているように見えます。トレパクの炎上が大きくなるのは、こういう「他人のふんどし感」「盗人感」が一般人にすごく嫌悪されるからだと思います。

合法的なトレパクもある

自分の写真、フリー素材、許可済みならOK

トレースしても問題ないものもたくさんあります。まず、トレースや加工OKと明記されたフリー素材は使っても問題ありません。フリー素材のなかにもトレースはダメなもの、商用(お金が発生すること。漫画賞への応募とか)はダメなものがあるので、利用規約をきちんと読みましょう。

自分が撮った写真もOKです。また、他人が撮影した写真でも許可をもらっていればOKです。友人やネットで知り合った人など、使わせてもらいたいなと思ったらきちんと交渉しましょう。

ただし自分が撮った写真でも、特徴的なデザインの個人の建築物や企業の看板、有名人や一般人の顔なんかはそっくりそのまま描かないでください。建築物のデザインにも著作権があり、看板は商標登録されている可能性があり、人の顔には肖像権があります。勝手に描くことでそれぞれの権利を侵害していることになります。

著作権がない画像ならOK

実は著作権て全ての画像に認められる訳ではないんですよ。たとえば、誰が撮影しても似たような構図になってしまう景色ってありますよね。東京タワーとか、高台の上から撮った夜景とか、橋の上から撮った桜並木とか、有名な寺を正面から撮ったとか。


こういうのは創作性がないとされ、作者が著作権を主張しても裁判所に「いや、これ誰でも撮影できるから」と突っぱねられます。なので、こういう写真はトレースしても法的に問題ないわけです。

かと言って本当に精密にトレースすると、法的に問題なくてもネットで追求された時に苦しいことになります。「お前自分で撮影しに行かなかったろ!」「ずるい奴め!」みたいに言われるかもしれません。

著作権のない写真をトレースするときは、まず画像検索とかインスタグラムとかで大量に同じ写真を探します。そしたらその10枚〜20枚くらいを乗算で重ねまくり、共通する部分を参考に形をとります。こうすると特定の1枚を下敷きにした訳ではなく、大量の写真を参考にしたので、トレパクとは言えなくなりますよね。

著作権の切れた作品もOK


日本の法律では、著者の死後70年で著作権が切れます。(ついこの間まで死後50年だったんですが、法律が変わりました。)こういう著作権の切れた作品は「パブリックドメイン」と呼ばれ、インターネットでたくさん画像が配布されてます。アルフォンス・ミュシャのこの画像も好きに使うことができるんです。

ただ、著作権が切れていても肖像権は残っていたり、企業が著作権を持ち続けていることも多いです。念のため複数のサイトで確実にパブリックドメインになっているかどうか調べましょう。

発表しなければOK

自分の練習用で、ネットや公の場に発表しなければトレパクしても全然大丈夫です。

たまにトレースや真似したのをSNSにアップする人もいますが、元の作者のアカウントを紐付けたりトレースを明言した上でリスペクトの姿勢があれば、だいたい許される風潮ではあります。あくまで風潮なので、元の作者が怒ったり訴える可能性がない訳ではありませんが…。

トレパクは有名漫画家もやっている

びっくりでしょうが、本当に誰でもやってます。しかも上で紹介したような合法的なものではなく、割とまんまなものが多いです。

セーラームーン

これは有名海外ブランドのファッションや写真などをそのまま使っています。ブランドに許可を取った上でなのか、無断なのかわかりませんでした。もし無断であれば、ファッションデザインにも著作権があるので訴えられたらまずいやつです。

ジョジョの奇妙な冒険

スタンド名の元ネタに海外バンドが使われてることからわかる通り、荒木先生は海外のファッション文化などが大好きです。自分でも参考にしてると言ってたみたいですが、結構まんま真似してます。

スラムダンク

バスケットボールの試合の写真をほぼそのまま資料に書いていることで問題になりました。これも裁判にはなってませんが、けっこう忠実に見て書いたな〜って感じです。

有名作家が許されるのは例外中の例外

上で挙げたのは全部20年くらい前の作品なので、今とは少し状況が違います。当時は日本全体で著作権意識が低かったですし、ネットも普及してませんでした。

ところが今ではネットの監視の目があり、一般人でも著作権について考えるようになりました。もし法的にはOKな範囲の模写でも、ネットでは大炎上する可能性がすごく高いです。

有名作家が許されているから自分もやろうかな、とは思わない方がいいです。実際にここ数年の漫画界隈では、悪質なトレースやパクリなどは連載中止、受賞取り消し、絶版などの厳しい処分になっています。

絵の練習にトレス、模写は欠かせない

ここまでずいぶん「トレスだめ、絶対!」と書いてきましたが、基本的に人間の文化は模倣の繰り返して発展してきました。なのでトレスや模写自体は別に悪くないよ、練習でならどんどん真似した方がいいよと私は思います。

トレスや模写で悪いのは、楽して絵を描いて発表しちゃおうと思うずるい考えです。たくさん模写やトレスの練習をして、好きな作品の好きな要素を体に覚えさせて作ったものなら、すでにあなただけのオリジナリティも入ってるはずです。

わたしは子供の頃の著作権意識がつよすぎて模写をほとんどしてこなかったので、全然絵が上手くなんなかったですね。皆さんにもし模写の練習をしたい意欲があるなら、どんどん上手い人を真似していいところをたくさん吸収してください。じゃないとわたしみたいになっちゃいますよ。

参考リンク