
絵柄は漫画にとって1、2を争う重要な要素です。絵がうまい、綺麗、流行りの要素があれば、それだけで読者が増えます。
そんな大事な絵柄ですが、話のリアルさに合わせてデフォルメを変えると効果的だと言われているのはご存知でしょうか?これはいろんな漫画家さんがインタビューや著書で語っていて、一部のプロの間で意識されていることのようです。
漫画の技術として明言されることはあまりありませんが、わたしの考察も交えてどういうことか解説していきます。
話のリアルさと絵のデフォルメは反比例させる
アニメや漫画など、絵と物語の業界では「リアルな話はデフォルメを効かせた絵で、空想の話はリアルな絵でかくと効果的」とたびたび言われています。※この記事で言うリアルな絵とは
人物の写実性や書き込み量、モノや背景などの忠実さなど、いろんな要素が「デフォルメ化」で削ぎ落とされてないことを指しています。
※この記事で言うリアルな話とは
人間関係や生死感、世知辛い展開や社会的なことなど、現実でありうる大人好みのテーマを指します。逆にひたすらギャグを飛ばすだけとかみんなで楽しく遊びましょうみたいな、ふわふわした夢の世界みたいなのは「リアルではない」とします。
リアル話×リアル絵=超完璧なリアル
わたしが読んだ本には「リアルな話をリアルな絵で描くと、絵に少しでも違和感があったときに読者の気がそれてしまう。ところがデフォルメのきいた絵で描くと、絵面に多少おかしなことがあっても気にせずに読んでくれる」というようなことが書かれてました。話がリアルで絵もリアルだと読者は「完璧にリアルな漫画」を求めます。最初から期待してくれるからハードルが高いんですね。だから「リアルじゃない部分」が少しでもあれば、期待や評価が簡単に落ちてしまうとか。
例えば、江戸時代の話をリアルな写実絵で描いてるのに、キャラのファッションが奈良時代とかだったら「リアルじゃない」わけです。これがデフォルメのきいた時代劇だったら、ファッションを現代風アレンジとかにしても「最初からリアルじゃないから許容範囲」としてくれる人が多いみたいなんです。
リアル話×デフォルメ絵=大人も読みたい隠れた名作
手塚治虫はデフォルメの強い絵柄ですが、作品の内容はリアルでシビアなものが多いです。しかもほとんどの連載作品は現在でも人気で、デフォルメ絵とリアルな内容の組み合わせが読者に受け入れられてることがわかります。手塚治虫の絵を「あんな子供向けじゃ大人は読まないよ」なんて非難する人はほとんどいませんよね。
さらに例を出すと、世界的大ヒットしている絵本で「大人にもおすすめ」と言われているものがこれに当たります。下の3つはどれも絵本らしい絵柄ですが、ある程度人生経験のある大人にこそ心に響く、リアルなテーマになっています。
さらに例を出すと、世界的大ヒットしている絵本で「大人にもおすすめ」と言われているものがこれに当たります。下の3つはどれも絵本らしい絵柄ですが、ある程度人生経験のある大人にこそ心に響く、リアルなテーマになっています。
ファンタジー話×デフォルメ絵=子供向け作品
話も絵もデフォルメが強いと、完全に子供向け作品になります。最初からターゲットが子供のみなら全然問題ないですが、「大人にも読んでほしい」「大ヒットさせたい」と思うなら、大人にも受ける要素を入れないとしんどいかもしれません。ファンタジー話×リアル絵=空想の世界観と相性が良い
魔法使いやSF、ファンタジーや怪獣など、現実ではありえない世界観を描くときはリアルな絵の方が読者に伝わりやすいです。現実にないアイテムや背景はしっかり描かないと、読者は何が描かれているのかわかんないですしね、漫画の具体例を見る
舞台:現代
世界観:ファンタジー(死神、デスノート)
テーマ:リアル(本当の正義とは?)
舞台:ファンタジー
世界観:ファンタジー
テーマ:ファンタジー→リアル(男の戦い、地球を守る)
舞台:ファンタジー
世界観:ファンタジー
テーマ:リアル(人間と自然の共存)
舞台:現代
世界観:ファンタジー
テーマ:ファンタジーとリアル(ひみつ道具を通して人間の欲などを描く)
舞台:現代
世界観:現代
テーマ:リアル(男の戦い、人の生き様)
舞台:現代
世界観:現代
テーマ:リアル(部活、恋愛)
舞台:現代
世界観:現代
テーマ:リアル(日常生活のちょっとしたこと)
歴代売り上げランキングからかいつまんでみました。こうして見ると、デフォルメとリアルのバランスが取れてる作品が多いみたいです。
まとめ
ここまで絵のデフォルメと話のリアルさのバランスについて書きましたが、実は日本の漫画ではキャラをデフォルメっぽく、背景はややリアル目に描くのが慣習化されています。キャラは漫画家本人が描き、背景はアシスタントが描くことが多いのが理由じゃないでしょうか。あとキャラと背景のデフォルメを変えることで見やすいというのもあります。慣習にはなってますが、別に守る必要はありません。デスノートみたいな現代で重い雰囲気ならリアルな背景が効果的ですが、星の王子さまやコジコジみたいな「一見ファンタジーでふわふわした世界かと思いきや実は現代への皮肉などが込められたリアルなテーマ」の話だとデフォルメの強い背景が効果的だったりします。絵とテーマのギャップが良いんですよね。
そんなわけで、絵のデフォルメは漫画の話に合わせて変えてみるのが良いよというお話でした。これも漫画の演出の1つなので、なんとなく自分の漫画に物足りなさを感じたら試してみてください。