漫画を描くときに「誰も想像できないような話にしてやろう!」と意気込む人は多いんじゃないでしょうか。私もストーリーを考えるのが好きなので、新しい感じの物語や変わったオチを思いついた時は嬉しくなります。
この記事では、読者の期待に応えることと、予想を裏切ることについて書いてます。どちらも似たようなもので紙一重ですが、さじ加減を間違えると「なんかこの漫画、微妙…」と思われてしまうかもしれません。
漫画は読者の期待に応えるべき
読者を意識した漫画、人気や売り上げを気にする漫画のほとんどは、読者の期待に応える必要があります。応えないと面白くないからです。読者の期待とは「こうなったらいいな」「こうだったら面白いな」と思うプラスの感情です。たとえば漫画のお楽しみポイントとかは期待通りに描いた方が面白くなります。アクションならアクションシーン、恋愛ならドキドキ、モンスター妖怪ものなら怖くておどろおどろしいシーンなどです。
また、キャラクターの言動に関わることも大体は読者の期待通りにした方がいいかなと思います。たとえば勇敢なキャラが勇気を振り絞ってリスクのある選択をするとか、小賢しいキャラは損得でいつも動いてるとかです。
「こういうジャンルの漫画ならこういうシーンが面白い」とか「このキャラならきっとこういう素晴らしい行動をしてくれるだろう」みたいなものは無理して裏切らない方が、読者は求めてたものを読めるので満足します。
恋愛漫画でヒロインとくっつかない
恋愛漫画であれば、ゴールは告白とかキスとか結婚とか色々設定できると思います。そこまで大きく進展しなくても、好きな人を少しだけ振り向かせるっていうオチでも十分です。読者も「最後は二人がくっつくよね!」と期待しながら過程を楽しんでくれるはずです。
なのに「二人の関係が全く変わらないまま漫画が終わる」とか「別の女の子が出てきて主人公はそっちといい感じになって終わる」とかの内容だったら、読者は「…は?」「ヒロインはなんだったの?」「これは何の漫画だったの?」って戸惑ってしまいます。
復讐劇なのに復讐を早々に諦める
進撃の巨人のように、強大な敵に家族を殺された主人公がいたとします。漫画の最初の方で「駆逐してやる!」って復讐劇感を存分に出したのに、数ページしたら主人公が「いや冷静に考えて無理だわ。敵でかいし倒せないわ」ってこたつでゴロゴロしてたら「は!?」ってなりますよね。ただのギャグ漫画です。
または早々に敵に理解を示して「あの人たちも仕方なかったんだ…生きるためだったんだ…許す…」っていきなり態度を変えても「は!?」ってなります。そんなの殺された家族も浮かばれないし、誰も納得しません。
実際の進撃の巨人では、厚いエピソードや主人公の価値観が変わるだけの体験が描かれているので、主人公が復讐に躊躇したり敵に理解を示しても読者は納得します。でも読み切りとか短い漫画では、最初の方で読者に提示した「こういうジャンルの漫画です」っていう情報から期待されることを貫き通したほうがいいです。
読者の予想は裏切っていい
予想って期待とどう違うんでしょうか。個人的な解釈だと、期待を裏切ると読者はがっかりしたり不快になったりしますが、予想は裏切ると「こうきたか!」「むしろ面白い!」とプラスの感情になります。
犯人の正体
推理物の多くは、犯人は誰だ!?を最大の謎として物語を進めます。読者はストーリーに散りばめられたヒントを元に推理して、「自分の考えが当たった!やったー!」とか、「予想と違った!けど言われてみればなるほどな」って感じで楽しみます。外れても漫画の面白さを左右するほどがっかりしません。
読者にこう思わせといて、実は犯人はこっち!というミスリード技法があるように、犯人の正体は読者の予想を裏切っていいんです。しっかりした内容で裏切れるほど作者の技量が感じられるし、読者も唸ります。
〇〇なのは主人公の方だった系
※超有名映画のネタバレです
シックスセンスという映画をご存知でしょうか。オチが見事で相当話題になった名作です。この映画は幽霊が見える少年と精神科医の主人公がメインキャラで、はじめの方は主人公が少年を救おうと試行錯誤してます。
ですがだんだんと違和感やヒントなどが見えてきて、主人公の方がすでに死んでいたことがオチで明らかになります。幽霊が見える少年は頭がおかしいのかと思いきや、実は主人公の方が成仏できない存在だったわけです。
ですがだんだんと違和感やヒントなどが見えてきて、主人公の方がすでに死んでいたことがオチで明らかになります。幽霊が見える少年は頭がおかしいのかと思いきや、実は主人公の方が成仏できない存在だったわけです。
幽霊が見える少年、妻に無視され続ける主人公、その他伏線はかなり見事です。ほとんどの観客はオチに驚いて、納得して、主人公に感情移入して、成仏を暖かく見守ります。こういう予想の裏切り方だと読者はがっかりもしませんし、むしろ物語の面白さが引き立ちます。
読者に「よかった!」の体験を
期待に応えることも予想を裏切ることも、読者に面白かったと思ってもらうための工夫です。読者の予想を裏切りたくて一緒に期待も裏切ってしまわないよう、ストーリーに一癖つけるときは注意してみてください。